パチ屋で知らない男に10万円貸した話⑤
男との待ち合わせ当日。週末のまだ朝マックの時間帯。男は時間通りに通称"角マック"と呼ばれる熊本屈指の待ち合わせポイント、東京でいうところのハチ公前に現れた。
そのマクドナルドは1階と2階に分かれていて、1階は席の間隔が近いだけでなく仕切りもないのに対して2階は申し訳程度に仕切られていた。
そこで今回は、話し合いの内容が内容なだけに2階で話し合いをすることにした。
話し合いの最大の目的はもちろん、男の「10万円を返済します」という旨の発言を引き出し、ガラケーの録音機能でその音声を収めることだ。
俺はあらかじめシミュレーションしたとおりマフィンとドリンクの乗ったおぼんをテーブルに置き席に着くと、コッソリとガラケーにて録音を開始した。
結論から言うと目的は達成することが出来た。
だがやはり男の態度や言動から、本気で全額返済しようという意思は感じられず、形式的にこちらの問いにそれっぽく答えていっているようにしか思えなかった。
そんな不毛な話し合いの末、とりあえず来月の返済日に今月分もまとめて2万円振り込むということで話がまとまり解散となった。
そして次の返済日。
当然といっていいだろう、連絡はなかったしお金も1円たりとも振り込まれていなかった。
といった具合にやってくれるはずだった12年前の俺であったが、この頃にはすっかり当初の熱量は残っていなかったらしく、とうとう面倒くさいという感情に飲まれ諦めてしまった。
こうして俺はパチンコ屋で話しかけてきた知らない男に10万を貸した挙げ句、全額踏み倒された。
この話は今まで誰にもしたことがなかったし、する理由もないし、何より情けない話なので墓場まで持って行くものだと思っていたが、どうやら人の考え方というものは何かをきっかけに大きく変わることもあるらしく、今回この話を公開することにした。
この話はこれで終わりだが、その発端となった事件とそれに関して思うことを次回綴ってみようと思う。
長々やった割に大したオチがないことだけ最後に全力で謝罪します。申し訳ありませんでした。
[後日談]
2年前くらいに男のLINEアカウントが電話番号で自動的に登録されてたから「お久しぶりです。もう金は返さなくていいですよ。元気ですか?」とLINEしてみたが返ってこなかった。
そしてしばらくしてもう一度見たらアカウントが消えていた。
恐らくまぁ都合が悪いなと感じてアカウントを削除したのだろう。
特に恨んでもないし10万円に未練もないが、もし今上手くいってるのなら連絡して欲しいし笑い話として語り合いたいものだ。