パチ屋で知らない男に10万円貸した話②

男のケータイにはパスワードが設定されていなかった。

 

早速メールを開いてみると、同じ女性の名前がずらっと並んでいて、それを2、3通読むとすぐに実家の母親からのものだとわかった。

 

心配する母親と、それに必要最低限の返事をする息子というどこにでもありそうなやり取りに拍子抜けした格好になったが、これ以上見る必要もなさそうだったので男のケータイを閉じて打っていた台に戻った。

 

そこからのパチンコの展開は全く覚えていない。極端なまでの非日常に身を置いたことで、文字通りそれどころではなくなってしまっていた。

 

そんな中、男が1時間もしないうちに戻って来た。そして開口一番

 

「ダメでした」

 

とポツリ。

いやダメでしたじゃないが。

 

「1万円返せるんですか?」

 

「今日は無理ですね。今度まとめて10万返すんであと9万貸してもらえませんか?」

 

何を言っているんだこいつは。

パチ屋で話しかけてきた見ず知らずの男に10万?

 

当然飲めるはずもない。こちらはリスクしかないのだ。

 

しばらく問答が続いた後、俺は10万を貸すことになり、二人揃ってパチ屋を後にした。

 

つづく