知らないタクシーの運転手からパーキング代を借りた話②
一気に50万もの大金を失ったことにより、遊んで暮らす夢のような暮らしは終幕となった。
働かなくては。
まず初めにやったことは生活費の確保である。
食事はもちろんのこと、このままでは11月分の家賃や光熱費も払えない。
そこで前の職場の先輩に「北斗無双で増やそうとしたら減ったので10万貸して下さい」と電話で事情を説明するとあっさり貸してくれることになったので、大分県まで車で1時間ほど走らせて取りに行った。
金を受け取った後ファミレスのジョイフルで飯を奢ってくれたが、食う飯を選べない極貧生活と化していたため過去一美味いジョイフルだった。
次は仕事探しだ。
漢検2級とAT限定普通免許と底辺大学中退以外の資格が無かったので、テキトーにその辺にあった工場に転がり込んで働くことにした。
そして迎えた12月。
11月の半ば過ぎから働き出したため、給料は親戚に金持ちが多い中学生のお年玉ほどしかなかったが、先輩に借りた金の慣性がまだ効いていたため何とか凌ぐことが出来た。
翌1月末。
給料が入り全ての支払いを済ませた私はパチ屋に凱旋した。
異変に気付いたのは2月に入ってすぐ、パチンコで適度に遊んでノーマネーになったときのことだった。
「あれ?車検今月の16日までじゃね?」
藤井聡太じゃない俺でも"詰めろ"が見えた瞬間だった。
私は車通勤で職場までは15kmはある。
公共交通機関も直通していない。
この車検、何としても必ず通さなければならない。心持ちだけは自身の進退を賭け債権回収を誓う半沢直樹さながらであった。
そこで私は早速市役所に相談した。
目当ては緊急小口資金という名の10万円貸付け制度だ。
が、審査を受けさせてすらもらえず、とある生協に行くように促された。そこで相談すればローンを組ませてもらえるかもしれないということだった。
私は早速その生協に連絡して約束を取り付けた。
当日。家から20kmほど車を走らせて最寄り駅のすぐ側のパーキングに車を停めて生協へ。
結論から言うとローンを組ませてもらえることになった。車の整備会社にも話を付けてもらい段取りも決まった。
これで全て解決だ。
私は深々と頭を下げて生協を後にし、車を停めていたパーキングに戻った。
そこで異変に気付く。
リアルマネーがないのである。
そのパーキングは支払い手段としては硬貨か紙幣しか使えなかったが、当時全ての支払いをauウォレットなるプリペイド式の決済手段で何とかしていたため、駐車場から出られなくなってしまったのである。
パーキングにあった電話番号にかけてみたが一向に出る気配はない。
どうするか考えていたら目に付いたのが駅前で暇を持て余してるタクシーの運転手だった。
「すいません、今お金持ってないの忘れててそこのパーキングから出られなくなってしまったんですけど、400円貸してもらえませんか?」
と優しそうな60くらいのおっちゃんに突撃してみるとその額の少なさ故か一人目で成功。
「ありがとうございます、またここ来るんでそのときに返します!」
と言い残すと、私はパーキングを無事脱出した。
後日。再び事務的な手続きのため生協に訪れた際に同じパーキングに停め、真っ先にタクシー乗り場の方を見た。
名前は覚えているからあのときの運転手が居なければ他の運転手に渡してもらおうと思っていたが、その人はいた。
「こんにちは、こないだ400円貸してもらってありがとうございました、助かりました」
と話しかけるとおじさんは驚いた様子で
「返さなくて良かったのに」
とニコニコで受け取ってくれた。
私は借りた金は必ず返す主義なので、こちらとしては大仕事を終えたような何故か誇らしげな心情だった。
余談だが、大分県の先輩に10万円を返したのは1年半後のことだった。その先輩は過去に医療費として必要だからと言われ10万円を知り合いに貸して返ってこなかった過去があったらしく、私から一括で10万円が返ってきたことはきっと嬉しかったのではないかと勝手に思っている。
貸して返ってくるだけで嬉しい金。
ならばたくさん借りた方が返した数だけ人を喜ばせることができる分豊かな人生になるに違いない。
借金したことない人も是非この機会にパチンコで散財して金を借りてみてはいかがだろうか。
レッツ、ギャンボー。