パチ屋で知らない男に10万円貸した話③
急遽合計10万という大金を知らない男に貸すことになったが、決め手は借用書を書くという一言だった。
なるほど、借用書があれば最悪法的手段を使えば取り返せるのかもしれないなと思ったのである。
もちろんそれだけではない。
普通に生きていたらこういう経験をすることは無いだろうという好奇心が生まれていたことと、当時お金に余裕があったことも手伝って、12年前のアホは借用書を書いてもらうためノコノコと男のアパートへ同行することに決めたのである。
どうやら男のアパートは歩いて行ける距離にあるらしい。知らない男に着いて行きながらいろんなことを頭の中でシミュレーションしていた。
部屋に仲間がいて襲われたらどうするか。
部屋に着いたら先に入ってもらって、俺が後から入り、異変を感じたら逃げるか。
襲われたときのために脅しながら逃げるための包丁でも買って行くか。いや、しかしなぁ。
そんなことを考えていたら男の部屋に到着した。いろいろ考えた割に結論は"やばそうになったらとりあえず逃げる"だった。
「どうぞ」
部屋の間取りは典型的な1Kで、居間に通された。
そして男は真っ白な手のひらサイズのメモ帳を用意すると、早速借用書を書き始めた。
「借用書の書き方わかるんですか?ケータイで調べるんでその通りに書いてもらっていいですか」
俺はすかさずツッコミを入れた。
それも当然の話で、渡された"借用書のようなもの"に効力がなければただの紙クズでしかないからだ。
「わかりました」
男の了承を得ると俺は、ガラケーで借用書の書き方を調べながら書き方を指示していった。
そしてそれほど時間を要することなく、あっさりと借用書は完成した。
それを確認のため手に取り見直す。
一番上にはひらがなで『しゃくようしょ』の文字。
仮に漢字がわからないにしてもお前の持ってるガラケーで文字を入力すれば漢字を表示してくれるというのに不誠実極まりない態度だなと思ったが、ひらがなだから無効ですと突き放すほど法は無情ではないだろうとそこはツッコまなかった。
返済の条件はこうだった。
・翌月以降の毎月30日に1万円ずつ10回、指定の口座に振り込む。
・利子は無し。
知らんやつに大金を借りておいて利子の申し出すらしないとは厚かましい奴だと思ったが、こちらから利子付けろとは言うのも違うと思ったのでそこもツッコむのはやめておいた。
借用書を受け取った後は、コンビニで金を下ろして9万を渡して解散となった。
何やってんだ俺は。バカだな。
そう思いながらも最悪法的手段を使ってやるという悪戯な気持ちも混在していた。
そして翌月。
最初の返済日はやってきた。
つづく