パチ屋で知らない男に10万円貸した話①
厳密にはパチ屋の店内で1万を渡し、残りの9万を知らない男のアパートの中で貸した話である。
12年前。22歳のクリスマスシーズンのある日。
俺は熊本県の下通(しもとおり)というアーケード街にある今にも潰れそうな過疎ホールでCR新世紀エヴァンゲリオンセカンドインパクトの甘デジ、通称金エヴァを打っていた。
その日は好調で、後ろに4、5箱積んでいる状況。現在の貨幣価値に換算して確か2万円ほど浮いていた。
外はすっかり暗くなった頃、ガラガラのホールで知らない男が話かけてきた。なかなか当たらず回転数は200に届こうかというタイミングだった。
「出てますね」
何やこいつ、話かけてくんなうぜぇと思いつつも適当にリアクションしていると、何やら本題と思われる話に突入した。
「〇〇(近くの別のホール)の蒼天が設定6で絶対勝てるんで1万円貸してくれませんか」
設定6というのはスロットにおける最高設定である。故に確かに勝ちやすい。
スロットがわからない人に向けてもの凄く平たく例えるとすれば
サイコロを1回振るのに1000円かかります。
1の目が出たら7000円もらえますといった塩梅の客が有利な設定だ。
確率通りの6分の1で1の目を引き続けた場合、6ゲームあたりの投資額6000円に対して7000円戻ってくるため、長い目で見ればそれこそ必勝である。
ただ、1万円という部分があまりにも引っかかる。
このサイコロの例えに当てはめても1、2回振れるかどうかという額であり、「サイコロ1,2回振って絶対1の目が出るので金貸してください!」と言われてるようなもので、到底納得のいく話ではない。
そもそも本当に設定6の台を掴めているのかも怪しい。リスクしかない話で明らかに貸す道理はない。
だが、パチンコで勝っていて多少心に余裕があったためか
「戻ってくるまで俺のケータイ渡しときますね」
と条件を提示された後、とうとう1万円くらいならいいかと折れてしまった。
男が感謝しながら去って行ったのを確認し、俺は足早に店内のトイレの個室に駆け込んだ。
そして今"担保"として預かったばかりの、当時まだ主流だった折りたたみ式のケータイを開いた。
つづく